{読書記録}Sunny@松本大洋

{あらすじ}
親と暮らせない子供たちが集い、日常生活を送る施設「星の子学園」。横浜からやってきた優等生・静、純粋でしたたかでおばかな純助、そして鋭く強く脆い春男を中心に紡がれる物語。

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本作の主題は、ありがちな「社会の差別」でない。もちろん、同じ学校の子供たちから傷をつけられることもある。けれど、そのへんはあまり描写されない。

それどころではないのだ。

出てくる子供たちは、真っ先に親に傷つけられている。親から心をズタボロにされている。それが主題だ。

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本作で気まぐれに現れる親たちは、ほとんどが「大人」になりきれず、親としての責務を果たせていない。

ある者はヒッピーとして放浪し、ある者は男とくっついたり離れたりして住処を転々とし、ある者は落伍者として呑んだくれる日々を送り、ある者は一見ふつうのOLとして働きながらも「母親」になることを根本的に拒否する。

子供たちはそれを決して否定しない。驚くべきことに。

苦しんだり文句を言ったりはする、でも絶対に否定しないのだ。身を切られる辛さを押し込め、必死で肯定しようとする。全編を通して語られるのは、苦しみに満ちた赦しだ。

子供たちは、極限の無理をして親を赦す。赦しつづけて、そのうちに限界がやってくる。代償は果てしなく大きい。支払ったものを取り戻すことはできない。可能なのは少しずつ、「何か違うもの」を積み上げていくことだけ。

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支払った代償の隙間を埋める、何か違うもの。

星の子学園を支える、取り巻く大人たち…その「違うもの」を少しずつ、日々配る。お弁当をつくり、参観日へできるだけ出向き、問題をおこした子の代わりに平身低頭謝る。台風の備えを手伝い、夜一緒に寝てやったりもする。しかしそれは本当に、本当にささやかな力しか持たない。全力を尽くしながら、いかほど無力感に襲われることだろう。

親であれば1リットルのボトルから、注ぐように与えられるはずの栄養。少しずつ誤魔化すように、スポイトで絞り出すように与える「違うもの」。

でも、それは暖かい。子供たちが生きていくために、最低限必要な礎。どう育てていくか、うまく吸収していけるか子供によって大きく変わることだろう。

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さまざまな親の中で、純助の母親は少し毛色が違う。

彼女は病気で入院していて、夫はいないようだが弟(純助の叔父)が病院の対応など、ある程度サポートしている。純助に対しても、きちんと愛情を示すことができる人だ。だから純助は、人間を信じることができる。

春男と純助は同じように万引きをするが、その背景はまったく違う。

純助はただ欲しかったり、恵まれたクラスメイトの境遇が羨ましかったりでモノを盗ってしまう。ただ欲しいのだ、だから返せばそれで終わる。春男はイラついたり誰かを試したかったり、破壊衝動として盗みを働く。商店をはじめとした大人から盗む。それによって疎まれたり叱られたりして、また心の傷を深くしていく。循環してしまう。

両親が死んでしまっためぐむについても同じで、慈しまれた彼女は愛を疑ったりしない。そして、ホステスの娘であるきい子が時にめぐむへ苛立ちを覚えるのも、きい子がけっして得られない慈しみの思い出へ対してなんじゃないだろうか。ただ めぐむには、親を取り戻すチャンスが決して巡ってこないという別の悲しみがあり、それも深く描かれているのだが。

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なにはともあれ名作です。

マイペースLIFE

物書き/ おばちゃんパート。凹凸兄弟&旦那あり。WEBのおうちはココです。

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